たとえば、肋骨と腹部の境目を季肋部といいますが、通常は季肋部の肋骨の下(乳首の真下位置)に手を当てて乳首方向へ向かい押し込むと、肋骨と腹部の隙間が開いて苦痛なく手が入ります。こうして肋軟骨部分を軽くつまむことができるのが正常です。
ところがこのような手技をおこなうと苦痛(苦満)感を感じる人がおられます。この症状は左右ともに起こりますが、一般的には右側に現れやすい傾向があります。気管支炎、慢性胃炎の患者に本証が認められることがあります。自覚症状として、充満感があり、苦しい。他者からも上記の手技をすると季肋部下に抵抗があり入りづらさを感じ、さらに押さえ込むと痛みや不快感を訴えられることになります。
この症状、当社比でありますが割合的に軽症重症をあわせれば10名中7名に及びます。
この操作を受けているお客様は、私と同業者でもない限り、はたしてなにをやられているのか見当がつきづらいと思います。
こちらは腹診で(胸脇苦満)と呼ばれる状態です。
(胸脇苦満図)
胸脇苦満の病因病機として考えられるのは、
・ストレスや過度の情緒の変化による肝鬱気滞などの気機の阻害がある
・肝胆の病変がある
ガスなどは気体ですが、そういった気体が腹部内に停滞すると上方へ泡が浮き上がるように移動して集まります。ゆえに比較的、みぞおち周辺は気滞が蓄積して満杯になってパンパンになりやすいわけです。そうした状況です。
胸脇苦満も手技で緩めていくことで、徐々に停滞したものが散り散りとなり、季肋部へ指を入れることもできるようになっていきます。
このように腹部を詳細に按じたり膨隆した状態を観察したりすることで、病因病機を発見して病証にたどりつくことを腹診と申します。
腹診で実証と虚証の違いを見分ける手がかりのひとつに、
按じても痛みが軽い----虚証《喜按(按じられて心地よい)》
按じて痛みが顕著-----実証《拒按(按じられて苦痛)》
軽く按じると痛む-----病位が表証、浅部
強く按じると痛む-----病位が裏証、深部
という別があります。
押されて苦痛を感じたたら拒按ですから胸脇苦満は実証とされます。
(これはざっくりしたわけ方で厳密ではありませんので、目安として使う程度と心得てください)
上述と季肋部を押してみると、硬い張りがあって、自分では痞えるような痛みが感じられるが他者が触っても胸脇苦満ほどの抵抗は感じないこともあります。
これを脇下痞鞭(きょうかひこう)といいます。気滞症状と同時に内部で『痞=つかえる』不調感がみられるときもあります。
この痞える(つかえる)とは、基本的には気滞や痰湿や胃脾の不調からおきるものです。ですが痞えた気滞証の状態が長期にわたり継続されたとき。それは同時に血流の停滞を引き起こし数ヶ月、数年と血流の停滞が起きれば血瘀が生成され、その血瘀が刺痛があらわれる固定痛を生じさせます。
臍周囲や大腰筋との絡みで血瘀が多く生成されやすい場があります。長期にわたり血流が阻害されて血瘀と化している部位は鋭利な針先で刺される痛みに例えられる刺痛が特徴で、痛みの箇所が固定しているため触診で探索しやすいものです。ただ、こうした腹部内に生成された血瘀は、周囲の臓器をも巻き込むセメントのような固定剤として働いています。すると無理やり血瘀の塊を強圧することがあれば、すでに血瘀が生成されている組織周囲は栄養不足・潤い不足・老廃物の蓄積そして新陳代謝が劣るため再生不良の状態に陥っていますから、容易に出血等のひどい痛みがでるといった不利益を被ることになります。
腹部での出血があれば腹部内の網脂のようなバンドエイド役の組織が急場を凌ぐため傷口にまでおりてきて止血をしてくれます。ですがそうした網脂は、止血後もずっとその場で居座り続けてしま、その大網自体が腹部内の癒着をしてしまい、事態が悪化してしまいます。
そうした血瘀の問題が腹部で腹診時に見つかったとします。そしていい施術者がいればいいですが、当面、頼めそうではないという場合もあるでしょう。
そうしたときは活血化瘀等の瘀血を対処する方剤をもちいて状態の改善をはかるという手もあります。
またここからは腹診とは離れ、施術手技に話が移されます。。。
腹部瘀血は臍周囲や少腹といった部分にてよく見受けられます。
これは大腰筋という筋肉が凝り固まって周囲に癒着を示すことがありますが、そのときに血行を阻害させて血瘀を生成させる原因を造ることもみられるわけです。
その場合、いきなり腹部を強く按じるのはよくありません。
それに先んじて大腰筋の緊張状態をリセットをしておきましょう。
そのためには脚部の大腿直筋や外側広筋、大腿筋膜張筋、内転筋群のリリースをしておいてください。それだけで腹部内の硬直した状態は半減していることに気づかれると思います。その後に大腰筋をカウンターストレイン等の、大腰筋事態を強圧する以外の手技である程度緩みを作り出してください。すると大腰筋の芯の凝りがどこに点在しているか、どこが膨隆し、どこがワイヤーのごとく筋張っているか、そしてそれらが腹腔内のどちらに癒着の根を持っているか。それらを確認いたし、手を出す手順の算段を付けます。もし経絡に詳しい方でしたら、先んじて大腿直筋や内転筋などを解いたときに、そこに腎経や脾経、胃経、その他の経絡の不良な張りが見つけ出せておれば、それが腹部内部の癒着に寄っていることが多々ありますから、それらを総合して状態理解の道具にすれば、大腰筋のどこの層を、どの位置を、どこまで緩めるかが見えてきます。
確か医道の日本社の腹診ビデオは参考になりましたが、どうしても本で全体を通して腹診がわかればと思って探しているものの、いまだ手に入れられていません。
入門 目で見る臨床中医診断学という本が、いまのところ私が持っている腹診のなかでもっともデータとして詳しい本となります。
なので内臓マニュピレーションがベースに絡まった自己流というしかない腹部の見方に偏ってしまっております。
いずれ五臓六腑の構造を直接触って理解もできる側面もある腹診ですから、ちゃんと一定のルールをもってみることができるようになれればと願っているところです。
最後に、AIで描いてもらった腹診のイラストをいくつか掲載させていただきます。
(腹診10パターン)
(腹診30パターン)
腹診30パターンをよくご覧いただけますれば、瘀血のタイトルを冠したものの多くは臍から下、少腹あたりに頻出していることがわかりますね。
腹部を按じられているときに刺されるような固定痛を、それらの部位に感じたときには瘀血がそこにあります。血瘀が血管内で生成されれば血液の循環が阻害されてしまうため、対処が速やかになされることをお勧めいたします。
(気滞は季肋部と心下、瘀血は少腹や臍下)









