その弁証法のひとつ八綱弁証という診断法がございます。
八綱弁証は、(表裏の判断+虚実の判断+寒熱の判断)→陰陽の判定。
で成り立っております。
表裏虚実寒熱の判断は、どちらも重要な意味を含み大切ですが、特に虚実や寒熱の判断は誤ると、即、誤治による副作用にかかわるため誤ってはならない判断です。
今回は、そのなかのひとつ虚実の見分け方をみてまいりましょう。
虚実の判断は、「身体のエネルギー(正気)が不足しているのか(虚)」か、「体内に有害なもの(邪気)が停滞しているのか(実)」という視点で分類します。
上述したように虚実の判断を誤ると副作用がでるという理由は、正気不足のためわずかな邪気に負けてしまう虚証の症状をもったものの邪気を取り除いても改善効果は薄く治療になりません。この場合は不足分の正気を補うことが治療となります。正気は十分あるもの体内に邪気が停滞している実証に対し、さらに正気を補うと、正気が過剰となり気血の流れも詰まり不調原因化となります。実証では、停滞して居座る邪気を除去することが治療となります。「足りないもの(虚)を補うべきか」それとも「余分なもの(実)を取り除くべきか」という視点で観察していきます。
では、たとえば虚証と実証を判断するとき、どのような基準があるのでしょうか?
耳鳴りは、
虚証なら低い音の耳鳴りで耳をふさぐと音は収まるか小さく減音します。
実証なら高音域の金属音で耳をふさいでも減音しません。
初めてお見えになられたお客様への問診で、
お客様が『耳鳴りがある』とおっしゃられたとき。
(耳鳴りだったら腎に問題がある可能性ありですね)と思いつつ、
施術者:『耳鳴りがあるんですか。ならその耳鳴りは高い音でしょうか、低い音でしょうか。耳をふさいでみても、音は続きますか?それとも消えたり減音するでしょうか?』
と伺います。
お客様:『音は高いキーンというジェット機が飛ぶ音のようで、耳をふさいでも、、、、してますよ』
施術者には、この時点で〘実証なら高音域の金属音で耳をふさいでも減音しません。〙という耳鳴りの際の虚実の判断から〘実証〙の耳鳴りゆえに、実証の可能性があると理解した次第です。
ですがお客様のお身体を望診により、顔色を観れば蒼白で血が足らない血虚という虚証です。
念を入れて舌を拝見させていただいたら、舌は淡く白に近い虚証とわかります。
よってこの場合は、ベースは虚証で気血等の足りない状態の人が、過剰なストレスにより気が停滞したり恒常的な気血津液の循環の停滞から痰湿や血瘀を経脈や血管にできて脈管を詰まらせた実証を体内に持つ虚実挟雑(きょじつきょうざつ)と呼ばれる状態と判断できます。虚実挟雑のケースは臨床上多く見受けられ、虚実のどちらの勢力が強いかで虚の手当を先にするか実の手当を先にするか判断する必要がでてきます。こうしたときのために複数の虚実を判定するための鑑別ポイントを知っておくようにするとよいでしょう。
虚証と実証の典型的な鑑別ポイント
日常的な臨床やセルフケアの視点で、特に判断材料になりやすいものをいくつか挙げます。
【虚証】(不足・低下) 【実証】(過剰・停滞)
● 痛みの性質 【虚証】鈍痛、押すと楽になる 【実証】激痛、押すと悪化(拒按)
● 温める【虚証】楽になる 【実証】不快になる
● 動く【虚証】疲れて悪化する【実証】少し動かして循環が良くなれば「実(気滞)」
● 時間帯【虚証】夕方や疲労時に悪化する 【実証】一日中変わらない、あるいは緊張時に悪化する
● 症状の経過 【虚証】慢性的、徐々に悪化 【実証】急性的、突然の発症
● 呼吸・声 【虚証】息切れ、低く弱々しい声 【実証】荒い呼吸、大きく強い声
● 顔色 【虚証】青白い、萎黄(黄色) 【実証】赤い、どす黒い(瘀血)
● 便通 【虚証】軟便、下痢しやすい 【実証】便秘傾向
● 汗 【虚証】自汗(安静時の汗)が多い 【実証】汗が出にくい、または暑がり
● 舌の所見 【虚証】舌が淡く、歯痕がある 【実証】舌苔が厚く、色が濃い
● 患部への反応 【虚証】触れられると心地よい 【実証】触れられるのを嫌がる
以上が典型的なものですね。
他にも下記のようなものがあります(一部典型的なものを補完する内容も含みます)
● めまい
【虚証】: ふわふわと浮くようなめまい、疲れや空腹で悪化する。
【実証】: ぐるぐると回るような激しいめまい、頭の重苦しさやのぼせを伴う。
● 咳
【虚証】: 長引く乾いた咳、声に力がない、夕方に悪化する。
【実証】: 突然出る強い咳、痰が絡む、喉の痛みや熱感を伴う。
● 身体の冷え・熱感
【虚証】: 慢性的で全体的な冷え、温めると楽になる(陽虚)。
【実証】: 局所的な熱感やほてり、冷やすと楽になる(実熱)。
● 「脈」の状態で見分ける(脈診)
脈の打ち方は、身体の状態をダイレクトに反映します。
【虚証】(「虚脈」): 脈が全体的に「弱く、細く、沈んでいる」状態です。軽く触れるだけでは感じにくく、強く押すとさらに消えてしまうような、力のない脈を指します。
【実証】(「実脈」): 脈が全体的に「硬く、力強く、太い」状態です。指先にしっかりと弾き返してくるような、力強い脈を指します。
● 「痛みの種類」で見分ける
痛みの現れ方は、エネルギーの状態によって明確に変わります。
【虚証】(「虚痛」): 「慢性的で、空虚な痛み」。だるい、重い、すーっとするような痛み。温めたり、手でさすったり、休んだりすると楽になるのが特徴です。
【実証】(「実痛」): 「激しく、詰まったような痛み」。刺すような痛み、張り裂けるような痛み。冷やしたり、安静にしても変化しにくい、あるいは動くと悪化することが多いです。
● 「舌」の状態で見分ける(舌診)
舌は「内臓の鏡」と呼ばれ、虚実が色や形で現れます。
【虚証】:
舌質: 淡白(色が薄い)。全体的にむくんで大きく、縁に歯の跡がついている(歯痕舌)。
舌苔: 苔がほとんどないか、非常に薄い。
【実証】:
舌質: 濃い赤色、あるいは暗い紫色(瘀血がある場合)。
舌苔: 苔が厚く、黄色い、あるいは黒っぽい。舌全体がこびりついているような状態。
● 「汗」の出方で見分ける
汗はエネルギー(気)の漏れや、邪気の排出と深く関わります。
【虚証】(自汗・盗汗):
動いていないのにじっとりと出る汗(自汗)、あるいは寝ている間にだけかく汗(盗汗)。「気」が漏れている状態です。
【実証】(無汗・多汗):
邪気が体表を塞いで汗が出ない(無汗)、あるいは体内の熱が強すぎて激しく汗をかく(実熱)。
● 「身体の反応(寒熱)」で見分ける
【虚証】: 「冷え」が中心です。特に「陽虚(エネルギー不足)」の場合は、手足が冷え、温かい飲み物を好み、動くと疲れやすく息切れします。
【実証】: 「熱」が中心です。特に「実熱」の場合は、のぼせ、口の渇き、冷たい水を欲しがり、便秘や尿の色が濃いといった症状を伴います。
● 「栄養・代謝のプロセス」で見分ける
身体が「入ってくるもの(エネルギー)」と「出ていくもの(排泄)」をどう処理しているかを見ます。
【虚証】(消化・吸収の失敗):
食べたものが十分に血や肉にならず、未消化のまま排出される。あるいは、エネルギー不足で組織の修復が追いつかない。
サイン: 食べた後の眠気、軟便、あるいは「食べたのに太れない」「疲労が抜けない」。
【実証】(代謝の停滞・詰まり):
入ってきたものを処理できず、体内に「ゴミ(痰湿・瘀血)」として溜め込んでいる。
サイン: 食後の腹部膨満感(ガスの停滞)、湿疹やできもの、体内のコリが硬く動かない。
● 「排泄物の色と勢い」で見分ける
身体から出るものには、体内のエネルギー状況が如実に表れます。
【虚証】:
尿: 透明で量が多い(頻尿)、あるいは色が薄い。
便: 勢いがなく、すっきりと出ない。残便感がある。
【実証】:
尿: 色が濃い(黄色や赤み)、勢いよく出る、あるいは出渋る(詰まり)。
便: 非常に硬い、あるいは悪臭が強い、排便時に腹痛を伴う。
実践的な「虚実鑑別」のヒント:両面を見る
臨床で最も迷うのが「虚実の混在」ですが、以下の判断軸を持つとクリアになります。
● 「睡眠の質と入眠時の状態」による見分け方
眠りの質は、その日のエネルギーバランスを教えてくれます。
【虚証】(多夢・浅い眠り):
「神(精神)」を養う血や気が足りないため、眠りが非常に浅く、夢を多く見て、朝起きた時に「寝た気がしない」という疲労感が強く残ります。
【実証】(入眠困難・熱がこもる):
体内に熱や邪気が溜まっているため、布団に入っても脳が興奮して眠れません。足が火照って布団から出したくなる、といった「熱の放出」を求める反応が出ます。
(臨床上のポイント)
■ 応用的な注意点:真実仮虚と真虚仮実 ■
学習を深めると必ずぶつかるのが、「見た目は実っぽいが、中身は虚(真虚仮実)」、あるいはその逆の「見た目は虚っぽいが、中身は実(真実仮虚)」という状態です。
例:真虚仮実(本当は虚なのに、実のように見える)
胃腸が極端に弱っているのに、食べ過ぎて詰まっているように見える(膨満感)。この場合、無理に瀉法(出す治療)を行うと、かえって衰弱します。
例:真実仮虚(本当は実なのに、虚のように見える)
体内に激しい炎症や熱(実)があるため、体力を消耗しきって動けない。この場合、虚だと思って補法(補う治療)を行うと、炎症を助長してしまいます。
これを見分けるには、「主訴(一番困っていること)」以外の症状(脈、舌、全身の疲労度)を比較することが鍵となります。
余談(今回は重要!)でございますが、
虚実で「治療反応(即効性と持続性)」で見分けることもできます。
■ 虚証の場合:
反応: 慢性で変化が緩やかです。施術直後は調子が良くても、すぐに元の「だるさ」や「重さ」に戻りやすい傾向があります。手技療法のみに頼る治療では、自然治癒を発動させる正気(生命エネルギー)が足りていませんから、状態が上向きづらい傾向にあります。
■ 実証の場合:
反応: 急性で施術や刺激に対する反応が速く、明確です。悪いものが排出されると、劇的に症状が改善することがあります。施術回数も少なくて問題ありません。ピンポイント手技で患部のコアを改善させれば、その余波が次第に末端まで広がって自動修復をする場合がみられるでしょう。
実証で邪気が体内停滞した方がお見えになられたとき、邪気を取り除くよう瀉法を持って対処すれば効果はすぐわかりますし、持続しやすいでしょう。虚証では足りなくなった気血がセルフケアでマッサージを施すだけでは増えていかないことが通常です。その場合は、気血の生成に関与する脾を補うような補法を持って継続的な対処が望まれます。つまり虚証傾向が強く、体質的に深く関わる疾患をお持ちである方が虚実挟雑により実証の邪気が停滞している箇所を通暢して通りよくしても、本来の虚証傾向が改善されなければ、真にすっきりした体調の快活さを取り戻すことができません。手技療法による施術のみによるケアは、虚証および虚実挟雑の方には不向きといえるでしょう。
施術や手技の多くは邪気が停滞して瀉法がベースでしたてられているからです。
つまり虚証のお客様に対してお願いしたいことは、自身の足らない分の正気を適正に補うことです。そこに意識が向かなければ、不調が長引く可能性があります。
虚実挟雑の方は、実証の症状が先に実感するような強さで感じられているはずです。その際は適宜、実証の邪気を取り除くことを先におこなうか正気を補いつつ祛邪するべきかを専門家に判断していただいて対処なさってください。虚実挟雑の実証部がなくなれば、扱いは虚証と同じ足りない分の正気を補う治療をおこなってまいります。
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