2026年06月07日

問診 十問歌

問診をするとき、ただ漫然とお客様が語る主訴を伺うだけでは偏った表裏、寒熱、虚実、陰陽を判断する情報はえられません。

では、どのような手順で問診を進めていけば、漏れやダブりなく情報をうかがい知ることができるでしょうか?

それは明代の医師であり、『景岳全書』の著者である張景岳(張介賓)が遺した『十問歌』があります。これは、中医学の問診における不朽のバイブルとなっています。

以下に『十問歌』原文と、臨床的な意味がしっかりと伝わるよう意図を込めた読み下し文(現代語訳を交えた解釈)をまとめました。




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​1. 『十問歌』原文

​一問寒熱二問

三問頭身四問便

五問飲食六問

渇倶当辨

九問旧病十問

(※ 下方に概説あり)

再兼服薬参機変。


​婦人尤必問経期、

遅速閉崩皆可験。

通産去後作何状、

更箇原因要詳辨。


育嬰条中多妙法、

幼児孤特莫軽視。





​2. 意図を持った読み下し文と臨床的解釈


​単なる直訳ではなく、「何を診るためにこの問いが必要なのか」という臨床的な意図(メカニズム)が伝わるように構成しています。


​【本歌:基本の十問】


​一に寒熱(かんねつ)を問い、二に汗(あせ)を問う
​読み下しの意図: まず最初に、身体の表(バリア)で何が起きているかを確認せよ。悪寒と発熱の有無で「外邪(邪気)がどこにいるか」を見極め、汗の出方(自汗か盗汗か)によって「気血の虚実や陰陽のバランス」を即座に判断するためである。


​三に頭身(とうしん)を問い、四に便(べん)を問う
​読み下しの意図: 次に、全身の経絡の滞りと排泄の状態を診よ。頭や身体の痛み・重だるさから「気血津液の巡り(滞りや不足)」を察知し、大便の状態から「脾胃(消化器)の寒熱や、腸管の潤い」を突き止める。


​五に飲食(いんしょく)を問い、六に胸(むね)を問う
​読み下しの意図: 身体の中央(中焦)のエネルギー製造工場の動きを診よ。食欲や味覚(飲食・口味)から「胃気の強さ・脾の運化」を測り、胸や腹の張り(胸腹)から「気がスムーズに流れているか、あるいはストレスや痰瘀(気滞・痰瘀互結)で詰まっていないか」を判別する。


​七に聾(ろう=耳目)を問い、八に渇(かつ)を問い、倶(とも)に当(まさ)に辨(べん)ずべし
​読み下しの意図: 最上部のアンテナと体内の水分メーターを合わせて診よ。耳鳴りやめまい(耳目)は「清陽の気が頭に昇っているか、あるいは腎精が足りているか」を示し、口の渇き(渇)は「体内の熱の強さと、津液の損傷度合い」を如実に表すため、これらは共に注意深く弁証しなければならない。


​九に旧病(きゅうびょう=既往歴)を問い、十に因(いん=病因)を問う
​読み下しの意図: 根底にある原因を探れ。九番目には「これまでの病歴や体質」を確認し、十番目には「今回発病した直接のきっかけ(精神的ストレス、飲食の不摂生、過労など)」を突き止める。
​再(ふたた)び服薬(ふくやく)を兼ねて機変(きへん)に参ず
​読み下しの意図: 最後に、これまで飲んできた薬とその反応を重ね合わせ、病態がどう変化(機変)しているかまでを総合的に観察し、柔軟に考察せよ。




​【別歌:女性と小児への配慮】
​張景岳は、一般的な十問にとどまらず、身体の構造やライフステージが異なる「女性(婦人科)」と「小児(小児科)」に対して、以下の項目を絶対に忘れてはならないと付け加えています。


​婦人は尤(もっと)も必ず経期(けいき=月経)を問うべし、遅速(ちそく)・閉崩(へいほう)皆(みな)験(けん)ずべし
​読み下しの意図: 女性を診る際は、特に月経の周期・状態を必ず問わねばならない。周期が早いか遅いか(遅速)、無月経や不正出血(閉崩)があるかを見ることで、女性の根本である「血(Blood)」の充実度や巡り、肝・腎の機能をすべて検証できるからである。
​通産(つうさん=出産・流産)去後(きご)何状(かじょう)をなすか、更(さら)に箇(こ)の原因(げんいん)を詳細に辨(べん)ずるを要す
​読み下しの意図: 出産や流産を経験した後に、身体がどのような状態になったのか。その後の体調不良に繋がる原因(気血の消耗や瘀血の停滞など)を、さらに細かく詳細に分析しなければならない。


​育嬰条中(いくえいじょうちゅう)に妙法(みょうほう)多し、幼児(ようじ)は孤特(ことく)にして軽視すること莫(なか)れ
​読み下しの意図: 小児(育嬰)の治療論の中には、先人の素晴らしい知恵(妙法)が多く隠されている。言葉で症状を訴えられない幼児の病態は、大人とは異なる独特で特殊なもの(孤特)であり、決して見過ごしたり軽んじたりしてはならない(顔色、食欲、機嫌、夜泣きなどを注意深く観察せよ)。





(※ 概説あり)
【十問歌:体調を見極める10の扉(概説)】

1.寒 熱 ─── 体の「冷え」か「熱」か
2.   ─── 「エネルギー(気)」や「潤い」の漏れ
3.頭 身 ─── 痛みの性質、体の重さ(湿気の有無)
4.便 尿 ─── 胃腸の元気度、水分の排泄
5.飲 食 ─── 栄養をエネルギーに変える力
6.   ─── ストレスによる「気の滞り(イライラ)」
7.   ─── 生育・エイジングを司る「腎」の強さ
8.   ─── 体の中の水分不足度
9.旧 病 ─── 生まれ持った体質のベース
10. 因  ─── 不調を引き起こした根本原因
【女性の特効門】月経・おりもの ─── 「血(けつ)」の充実度と巡り





まとめ
​張景岳の『十問歌』が素晴らしいのは、単に「10個の質問を上から順にしろ」と言っているのではなく、**「表(外側)から裏(内側)へ」「上焦から下焦へ」**と、人間の体を立体的に捉えるための思考ルートを示している点にあります。
posted by スズキ at 12:49| Comment(0) | TrackBack(0) | 中医学診断 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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