2026年05月04日

薬膳の面白さ: 「対薬」のメカニズム:1+1を「3」にも「0」にもする魔法

食材のもちい方はさまざまございます。


食薬や中薬を単品で使う場合。

たとえば、冷えた身体を温めため乾姜をお湯にいれお茶としていただきます。
生姜(しょうが)は身体を暖めず冷やす性質でしたが、乾姜は生姜を蒸して乾燥させる加工を施すことで身体を温める性質に変化させた生薬です。
大きな生姜がからからに干からびるとこんなに縮むのかと驚きますが、だから生姜の成分が濃縮されることで五性の性質が変わったんだなと実感できます。
よって乾姜単品も立派な薬膳素材なんです。

ではちょっと視野を広げて料理を観察すると、
お刺身に(大根の千切り)や(食用菊)や(わさび)が添えられています。
料理に詳しいご婦人方は、それら添え物の役割をご存知でしょう。
添え物には味覚上のおいしさの追求ばかりではなくて、

刺身の横に添えられている大根の千切り(ツマ)、食用菊、わさびには、彩りを添えるだけでなく、
それぞれ「殺菌」「消化促進」「消臭」といった理にかなった役割があります。


​それぞれの理由について解説します。

1. 大根の千切り(ツマ)
​「ツマ」には「主役(刺身)を際立たせる」という意味がありますが、機能面でも重要な役割を果たしています。
消化の助け: 大根には「ジアスターゼ(アミラーゼ)」などの消化酵素が豊富に含まれています。生魚の消化を助け、胃もたれを防ぐ効果が期待できます。
殺菌・解毒作用: 大根に含まれる辛み成分「イソチオシアネート」には殺菌作用があり、生ものの鮮度を保ち、食中毒を予防する知恵として添えられてきました。
口直し: 脂ののった魚を食べた後に大根を食べることで、口の中をさっぱりとさせ、次の魚の味を新鮮に楽しむことができます。


2. 食用菊
​黄色い彩りが美しい食用菊は、江戸時代から刺身の付け合わせとして重宝されてきました。
解毒作用の強化: 菊には「グルタチオン」という成分の生成を助ける働きがあり、肝臓の解毒機能をサポートすると言われています。
​殺菌・防腐効果: 菊の香り成分には殺菌作用があり、生魚の傷みを抑える効果があります。
​食べ方: 本来は飾りとしてだけでなく、花びらを散らして醤油に浮かべ、その香りと共に刺身を楽しむためのものです。


3. わさび
​刺身に欠かせないわさびは、味のアクセント以外に非常に強力な実用的機能を持っています。
​強力な殺菌作用: わさび特有のツンとする辛み成分「アリルイソチオシアネート」には強い殺菌・抗菌作用があります。冷蔵技術が発達していなかった時代から、食中毒を防ぐための必須アイテムでした。
生臭さを消す(消臭効果): 魚特有の生臭さを化学的に中和し、風味を格上げする効果があります。
食欲増進: 刺激的な香りが嗅覚を刺激し、唾液や胃液の分泌を促すことで、食欲を増進させます。


​これらは総称して「薬味(やくみ)」と呼ばれます。
文字通り「薬」としての側面を持っており、冷蔵庫がない時代から日本人が経験的に積み上げてきた「生食を安全に、美味しく楽しむための知恵」の結晶と言えます。


ここでひとつ、気をつけて置かなければならないことがあります。
食材や中薬を組み合わせ『薬』とする作用もありますが、
思わしくない組み合わせをなせば『毒』にもなる。
食材の配合には正負の両面があって、
気づかないうちに毒になる食材の組み合わせをして体調を崩すことがあるのです。

中医学では配合のことを​配伍(はいご)と申します。


※ ​配伍(はいご)の意味
​2種類以上の生薬を組み合わせることを指します。単に混ぜるだけでなく、それぞれの薬性の相乗効果を狙ったり、毒性や副作用を抑えたりするために、一定の理論(「七情」など)に基づいて組み合わせを決める重要な概念です。

配伍のパターンを以下に記します。

■ 相須(そうしゅ)・相使(そうし):相乗効果で「1+1=3」にする

同じ方向性を持つものを組み合わせ、効果を爆発的に高めます。

(例:気虚に対する黄芪+党参)


■ 相殺(そうさつ)・相畏(そうい):毒性を「1+1=0」にする

がん細胞を叩く生薬には「有毒」なものが多くあります。その毒性や、胃腸への猛烈な負担という副作用を、もう一つの生薬で打ち消します。

(例:強力な化痰薬である半夏(はんげ)の毒性を、生姜(しょうが)が打ち消す)


■ 相制(そうせい):相反する性質で「ベクトルをコントロール」する

「温める」と「冷やす」、「昇らせる」と「降ろす」という真逆の性質をあえて組み合わせることで、暴走を防ぎ、特定の臓腑だけにピンポイントで作用させます。


対して、
■ 相反(そうはん)・相悪(そうあく):「配伍禁忌」タブーであり、してはならない組み合わせ

相反は「毒性を発生させる組み合わせ」、相悪は「効果を打ち消す組み合わせ」です。

​臨床においては、特に「相反」による事故を防ぐことが最優先されるため、この2つは「避けるべき不適合」として一括りに教育されることが多い概念です。
毒性を生み出す相反の組み合わせを具体的に知らないままレシピを作ると、
気づかぬうちに食べる方の体調を追い込んでいた。
そうした危険な落とし穴にはまらないように注意を向けたいところです。

※ 一般の方々が作るネットにあげられたレシピにも相反の禁忌な配伍が、ときどき見受けられることがあります。
  それに私どもが薬膳レシピ創作の課題で工夫していたら、いつのまにか相反や相悪の配伍をしてしまうこともあります。
  注意が必要だとつくづく思う次第です。



以下にカンタンなまとめ図を記します。



Screenshot_20260504-094734~2.png

(配伍まとめ図)



またこないだネットで注文した『中医肿瘤临证对药』という中国語の本。

IMG_20260504_104135_721~2.jpg
本の写真

がんでは、特に注意深く配伍の正負の正を摂って負を避けることが肝要です。
特に基準より大きく体力が下がっているときの相反は避けなければなりませんから、がんの種別にふさわしい配伍が記された本を参考にすべきでしょう。

データ項目は、
中薬の配伍が取り上げられており、
補益類、清熱解毒抗癌類、化痰散結類、理気類、活血化瘀類、固摂類、その他類にわたり、
【単味功用】
【配伍功能】
【主治】
【常用量】
【化学成分、薬理研究】
【臨床経験】
【参考文献】

中薬の配伍を知っているか知らないか。
そこが効きの分岐点にもなってまいります。

がんのための対薬を紹介する本ですが、
補益類の章は一般の方にも存分に応用できる内容です。


中国から送られてくる本はビニールでぴっちり包装されたきれいな状態の本が多いものの、
届いてみなければ求める本かどうかはわかりません。
だいぶん失敗もしますがこの本は気に入りました。

余談ですが化痰散結の配伍に最近マイブームで調べている瓦楞子(がりょうし)というアカガイの貝殻を生薬とした組み合わせも載っていればと期待したが、残念ながらございませんでした。牡蠣を使う配伍はあって、このような組み合わせが推奨されているのかと参考になりました。
posted by スズキ at 11:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 中医学診断 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック